タブレットPCを使って読み書きを楽に楽しくするために①ータブレットPCを紙と鉛筆の代わりに使うには?ー

タブレット活用が合理的配慮につながるプロセスは

こんにちは,平林です。

先日,教育ソフトの開発をされているレデックス株式会社さんのメールマガジン『レデックス通信』に「タブレットPCを使って読み書きを楽に楽しくするために」というタイトルで3回シリーズで連載を書かせていただきました。

レデックス通信 

こちらからバックナンバーの閲覧と登録ができます。

https://www.ledex.co.jp/mailmag

レデックス通信は2010年7月以来9年にわたって,月に2回発行されており,現在発行されている記事はなんと200以上,

実践家、研究者、保護者など様々な方が執筆しているんだそうです!

私が書かせていただいた3回シリーズ,

その内容は以下のものです。

タブレットPCを使って読み書きを楽に楽しくするために

第1回 タブレットPCを紙と鉛筆の代わりに使うには?

第2回 タブレット活用における自己決定を支援するには?

第3回 タブレット活用が合理的配慮につながるプロセスは?

それでは,まずは第1回目からこのブログでも紹介したいと思います。

タブレットPCを紙と鉛筆の代わりに使うには?

https://www.ledex.co.jp/mailmag/20190426

学習障害の中でも読み書きの困難を抱えた人はディスレクシアと呼ばれます。ディスレクシアの子どもは文字の読み書きが全くできないわけではありません。読めるけれどもたどたどしい、読めるけれども正確に読めないなど、読みの困難さを例に挙げてみても、それは一つの軸で測ることはできず、複層的なものです。

さらに、一旦はある漢字の読み方を覚えたにもかかわらず、時間が経つとそれを忘れてしまうという定着の問題をもつ場合もあります。したがって、ディスレクシアの子どもに対して、「全く読めないわけではないから、努力し続ければ追いつくはず」という考え方は正しい理解ではないでしょう。ディスレクシアの中核には“文字の形”と“その文字が表する音”を連合させることの難しさがあるといわれています。文字の形と音の連合を作る難しさの程度はそれぞれの子どもによって異なるため、読み書きの苦手さも濃い薄いというグラデーション状になっていると考えられます。

子どもがことばを身につける場は生活の中です。他者とのコミュニケーションを通じて少しずつことばを身につけていきます。しかし、文字の読み書きは生活の中で身につくものではありません。子どもは小学校1年生から文字の学習をはじめます。文字を学ぶ機会がなかったり、十分に練習をしなかったりした場合は読み書きできるようにはなりません。そのため、ディスレクシアの人は、その困難を有する本人でさえも自分の困難さを認識しないまま自分の努力が足りないのだと自分を責め、支援が求められないでいる場合があります。ディスレクシアは目に見えない障害なのです。したがって、保護者や教師がディスレクシアを理解し、支援していく必要があります。

ディスレクシアへの支援として、近年、タブレットPCなどのテクノロジーを活用する方法が注目を集めています。紙の印刷物はこれまで、情報を得たり表出したりするために社会の中で広く使われてきました。小学校・中学校においても紙の教科書を読んで、紙のノートに手書きでメモをしたり、答えを手書きで書き込んだりすることは一般的です。このように教育が紙中心で行われてきたのは、紙以外の方法がまだ身近にはなく、高価であったために選択肢として挙がらなかったためと考えられます。

しかし、近年の科学技術の発展により、スマートフォン(以下、スマホ)やタブレットPC(以下、タブレット)等のICT機器が身近なものとなり、情報は紙の印刷物だけでなく電子媒体で閲覧したり、記録されたりするようになりました。スマホ・タブレットを学びに取り入れていくことで、ディスレクシアの子ども達の学ぶ環境を大きく変えることができます。本を目で見て読むことが難しいならば、文字を音声化してそれを耳で聞いて読むことで情報が得られる(音声読み上げという技術を用います)、文字を手書きすることが難しいならば、ワープロのキーボードで文字を打ち込んで表出することで、考えを表出することができるという考え方です。

スマホ・タブレットといったハード面の普及だけでなく、教科書等の教材の電子化も進んでいます。紙の教科書を読むことが難しい子どもには、紙の教科書の代わりに音声でその内容を読み上げる教科書(通称、音声教科書)が無償で提供される仕組みがあります。音声教科書の提供は「障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律(教科書バリアフリー法)」に基づき、現在4つの団体が音声教材(マルチメディアデイジー教科書、Access Reading、音声教材BEAM、ペンでタッチすると読める音声付教科書)を提供しています。4種類の音声教材のうちマルチメディアデイジー教科書※1と、Access Reading※2は、教科書の内容を音声で読み上げる以外に文字の大きさや、文字色や背景色といった文章の見た目を個人の特性に合わせて変えることができます。

※1 日本リハビリテーション協会 (詳細はこちら>>

※2 東京大学先端科学技術研究センター (詳細はこちら>>

このような教材を用いることで、教科書を音読するのが苦手な場合には教科書の内容をまず音声で聞いておいて、それを繰り返して言えばスラスラ読めます。そうすることで教科書の内容があらかじめ頭の中に入っているので、安心して授業が受けられるのです。

ICT機器は、文字を書くのに苦労していて学校でノートを書き写すのが間に合わない、そんな子どもにも役立ちます。ノートアプリ※3に黒板の写真を入れて、その上からワープロを使って文字を打ち込んだり、プリントを取り込んで解答を書き込むことも簡単にできます。

※3 例えば、iOSだとUPADやGoodNotes、OneNoteなどが便利です。(アプリに関しては,こちらの記事を参照ください こちら>>

読み書きに苦労している子どもが、紙と鉛筆の代わりにタブレットを利用する時に大切なことは何でしょうか。3つポイントがあります。

まず1つ目のポイントは、子ども自身が操作方法を知っていることです。タブレットの読み書きを補う機能やアプリをまず家庭で使ってみてください。使い方がわからなければワークショップに参加したり、インターネットで調べて使い方のビデオを見たりするのもいいですし、学校にタブレットの操作に詳しい先生がいれば力を借りるのもいいでしょう。

2つ目の大切なポイントは子どもと大人が一緒にタブレットを使って遊ぶことです。子どもにタブレットを渡すと多くの子どもは面白がってタブレット上のいろいろなボタンを押していきます。大人はそれを見ると大人が考えるタブレットの正しい使い方を教えたくなってしまいます。ここで大人が正しい使い方を教えたくなる気持ちをぐっとこらえ、一緒に遊ぶことが大切です。例えば、以下の図を見てください。

マッピングツール(Simple Mind+, iOSアプリ)で運動会の出来事を書き出している様子(枝が頭,手,足として描かれている)

この図は、ある子どもが情報を整理するためのマッピングツールを使って人の形の絵を描いたものです。大人としては、マッピングツールは作文を書くのに役に立つのだから、遠足でどんなことがあったか心に残ったことを書き出してほしい、という気持ちがあります。しかし、子どもはそんな大人の気持ちをよそに大人が想定していない方法でマッピングツールを使い、絵を描いたりします。 このとき、大人はぐっと我慢しなければなりません。大人のやり方を押し付けるのではなく、子どもが何をしようとしているのか、観察しましょう。そしてできればそれを一緒にやってみましょう。子どもはマッピングツールの枝を「自由に配置して動かせる」ということを学んでいるのですから、もっと他の絵を描いてみようと一緒に遊ぶことが大切です。そうすると、例えばプログラミングに興味がある子どもがプログラムの構造を書きたいけれど手書きでは書くのが難しい、そんな場面で自分からマッピングツールを使いはじめることがあります。

3つ目のポイントは、「子どもが参加する活動を設計してタブレットを活動の中で使う」ということです。活動を設計する、というと難しく聞こえるかもしれませんが、身近なことから「自分にとってこれは必要なんだな」と感じる瞬間を作ることが必要です。

例えば、学校の授業での板書が手書きでは間に合わないからカメラをメモツールにするのがいいのではないかと大人が考え、実践した時に何が起こるでしょうか。カメラがあればメモができてとても便利だとすぐに活用できる子もいますが、自分からは板書をカメラで撮影しないとか、カメラで撮影して帰ってきたけれどそれを家では全く見返さないという子もいます。そのような場合、その子はメモの便利さを知らないのかもしれないし、学校の板書を家で見返したくないということかもしれない、いろいろな可能性が考えられます。まず、家庭でできることとして後から見返したい情報は写真で撮っておけば便利だということを生活の中で子どもに教えておくということが大切です。

そこで、「スーパーで特売のひきわり納豆3個パックと単4の乾電池を4個を買ってきて」などと子どもに買い物ミッションを依頼しましょう。少し長めの指示にして複雑にしないと子どもが覚えてしまう場合がありますので、少し難しくします。子どもがメモを取らずに買い物に行こうとしても、止めずにぐっと待ちます。何かを買い忘れて帰ってきたら、「次はカメラでメモを撮っていこうね」と、一緒にスーパーの広告の写真を撮ります。そして、次の機会にまた買い物ミッションを子どもに依頼して様子を見る、ということを繰り返します。それによって、覚えられそうにない情報はあらかじめメモをするという行動と、そのメモを必要なときに見返すという行動が子どもの中から自発的に出てくるようになります。カメラがメモツールとして活きるということになるのです。

日常生活の中ではなかなか余裕がないという場合もあるかと思いますが、まずは、3つのポイントを参考に、子どもたちと楽しくタブレットで活動をしてみてください。

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