タブレットPCを使って読み書きを楽に楽しくするために②ータブレット活用における自己決定を支援するには?ー

自己決定

こんにちは,平林です。

教育ソフトの開発をされているレデックス株式会社さんのメールマガジン『レデックス通信』に書かせていただいた「タブレットPCを使って読み書きを楽に楽しくするために」3回シリーズの2回目です。

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レデックス通信は2010年7月以来9年にわたって,月に2回発行されており,現在発行されている記事はなんと200以上,実践家、研究者、保護者など様々な方が執筆しています。ウェブサイトからバックナンバーの閲覧と登録ができます。

タブレットPCを使って読み書きを楽に楽しくするために 第2回「タブレット活用における自己決定を支援するには?」

https://www.ledex.co.jp/mailmag/20190517

第1回 タブレットPCを紙と鉛筆の代わりに使うには?」でご紹介したように、近年の科学技術の発展により、スマートフォン(以下、スマホ)やタブレットPC(以下、タブレット)等のICT機器が身近なものとなり、情報は紙の印刷物だけでなく電子媒体で閲覧したり、記録されたりするようになりました。

スマホ・タブレットを学びに取り入れていくことで、ディスレクシアの子ども(読み書きが苦手な子ども)達の学ぶ環境を大きく変えることができます。

本を目で見て読むことが難しいならば、文字を音声化してそれを耳で聞いて読むことで情報が得られる(音声読み上げという技術を用います)、文字を手書きすることが難しいならば、ワープロのキーボードで文字を打ち込んで表出することで考えを表出することができるという考え方です。

このような考え方は、ある機能を別の方法で補うことから代替アプローチと呼ばれます。

ディスレクシアの子どもがタブレットと出会い、読み書き困難を補う方法(例えば、タブレットを紙と鉛筆の代わりに使う)を見つけた時、その先にはどのようなステップがあるでしょうか。

タブレットの活用場面を具体化する

タブレットは家庭の中で学びのツールとして活用する場合には、学校・教員・クラスメイトといった他者からの理解が得られることや、本人が自分の学び方を周囲に表明することなどは必要ありません。しかし、家庭での活用から一歩進み、学校でタブレットを使うとなると少し異なる課題が出てきます。以下のような場面を考えてみましょう。

  • A. 宿題にタブレットで行う(家庭 / 個別)
  • B. 授業中にタブレットを使う(学校 / 集団)
  • C. 学校のテストでタブレットを使う(学校 / 個別または集団)

タブレットを用いる活動が、集団場面なのか個別場面なのか、周りの子どもと比較する評価の要素があるのかないのか、によってタブレットを使う障壁が高かったり低かったりします。

そして、その障壁は学校側に生じたり、タブレットを使う子ども自身の中に生じたりします。

タブレットはまだ学校の中で子どもたちが自由に使用出来るものではなく、学校は個人がタブレットを教室に持ち込むことを制限しています。

そのため、通常学級という集団の中でタブレットを使おうとすると、その子どもが何らかの困難を有していることを周りに表明することになってしまいます。このような理由で読み書きが苦手な子どもが、タブレットというみんなと異なる方法を通常学級で使用することに抵抗を示す場合も少なくありません。

したがって、タブレットの活用にあたっては子どもがどのような希望をもっているのか、学校がどのような理解をしているのかを確認しながらタブレット活用を進めていきましょう。

本人の希望を聞く

まずは子どもの希望を聞いてみましょう。そのとき、「学校でタブレットを使いたいですか?」という聞き方は丁寧な聞き方とは言えませんかもしれません。タブレットを使う場面は上記のA「宿題」、B「授業中」、C「テスト」のようにたくさんあります。

B「授業中」やC「テスト」のように友だちがいる集団場面では使いたくないけれど、A「宿題」では使いたいとか

A「宿題」B「授業中」では使いたいけれど、C「テスト」はみんなと同じようにやりたいとか

場面を分けて聞くとよいでしょう。

使用する場面だけでなく、「教科」という切り口も大切です。「国語」は書く量が多いから使いたいけれど、「算数」は数式や図形などなので手で書いた方がやりやすいといった教科の特性によってニーズが生じることもありますし、先生の授業スタイル(例、板書中心だったりプリント中心だったり)によってもタブレットの必要性が変わってくることがあります。子どもの話を丁寧に聞き取り、具体的な活用場面をイメージしましょう。

子どもが自己決定するための準備をする

丁寧に子どもの話を聞いたら、次は本人が自分の学び方を選ぶ(自己決定)ための関わりが大切です。子どもの話を聞いて浮かび上がってきたニーズに関して、どのような方法でそれを補えそうか試せることをいろいろと試しましょう。

わたしは、経験することは自己決定のための大切なステップだと考えています。

「国語のテストで長文で解答するところが手書きでは間に合わない」

「みんなの中でタブレットを使ったら友だちになんでタブレットを使っているのと聞かれるかもしれないけれど、なんて答えたらいいのかわからない」

というような子どもの話があったとしたら、どうすればいいでしょうか。

まずは、「家で国語の長文解答をタブレットでやってみよう」と提案してみましょう。実際にやってみることで、ワープロの入力速度はどうかとか、どのアプリで入力しようかとか、縦書き横書きはどうしようとか具体的な課題が見えてきます。

そうしたら、その具体的課題について家で取り組みます。そうしているうちに、子どもが自分でやりやすいやり方を探索し、経験し、技能を身につけるというプロセスを経験することができます。このプロセスこそが自分で決める準備になります。あとは、どうしたいのか本人の希望を聞き、その決定を尊重していくことが大切です。

事例紹介 小学校の通常学級にICTを導入した読み書きが苦手なAさん

小学6年生のAさんは読み書きに特異的な苦手さを抱えています。小学1年時から文字を読むのに苦労しており、小学3年生からは通級指導教室※で文字の読み書きの指導を受けてきました。読める文字が少しずつ増え、筆者が指導を開始した小学3年生2月の段階では学校で学習した国語の単元の問題はなんとか読むことができました。

しかし、国語の初読(初めて見る文章を読む)場面では内容を読み取ることが困難でした。Aさんの困難は学校場面だけでなく家庭学習においても生じます。それは漢字を繰り返し書く課題においては、1文字書くたびにどこか文字の一部がお手本とは異なってしまい、計算ドリルでは筆算をすると桁がずれてしまうことでした。そのため、毎回、保護者の方に問題を代筆してもらっていました。

※通級指導教室は、特別な支援を受けるために学区内の学校(場合によっては同じ学校内)に設けられた学級です。週に何回かそこに通って支援を受けます。その場合、もともと所属している学校を在籍校といい、試験等は在籍校で受けることが一般的です。

小学校3年生のときにテクノロジーで読み書きを代替する技能を身につける塾※に通い、タブレットの活用技能を身につけました。そして、タブレットを毎日の宿題に活用しました。保護者の方が代筆していた計算ドリルは、格子になった枠の中に数字を入力して筆算が書けるアプリを使って、自分で筆算を書き、それをノートに貼り付け提出します。

※参考 テクノロジーで読み書きを代替する技能を身につける塾「ハイブリッドキッズアカデミー」 (詳細はこちら>>

家庭ではタブレットを読み書きの代替手段として活用するAさんでしたが、通常学級にタブレットをもちこみ、みんなと違う方法を使って学ぶことには抵抗がありました。タブレットを学校で使うことは希望しない、国語のテストで初読の文章に対しても自分で読めるので問題ないというのが本人の意見でした。

Aさんに対し、もう一歩、困難なことを別の方法で補うことを経験してもらうために、国語のテスト問題を大人が代読するしてみるという試みを小学3年12月に行いました。

正答数に大きな違いはなかったのですが、代読条件では解くのにかかる時間が短く、すべての設問に回答することができました。

テストの後、本人に代読で読むことについての感想を聞くと( 自分で読むほうが良い:1.どちらかといえば自分で読むほうが良い:2.どちらともいえない:3.どちらかといえば読んでもらうほうが良い:4.読んでもらうほうが良い:5 )、Aさんが選んだのは「4」と「5」の間、「4.5」でした。

本人に感想を尋ねると「自分で読むよりも声で聞いたほうがわかりやすく、疲れにくい。学校のテストで読んでもらえるとしたら読んでほしい。」とのことでした。

Aさんが学校でのタブレット活用に前向きになってきたことから、家庭から通級指導教室(通級)にタブレット活用の要望を出し、通級においてもタブレットを導入した指導が行われることになりました。通級での実践は、斎藤(2016)※に詳しく記載されています。

※齋藤 仁美.(2016).「魔法のプロジェクト2015 ~魔法の宿題~」成果報告書
(詳細はこちら>>

※同 世田谷区立桜小学校 報告書 (詳細はこちら>>

小学5年12月に本人から以下のようなメールがわたしのところに届きました。

https://i0.wp.com/rumihirabayashi.com/wp-content/uploads/2019/10/tegami_yagi.png?w=880&ssl=1
メール

ひらばやしせんせい ぼくはこのてがみを●●●せんせいにわたします。
●●●せんせい僕は2がっきのうちにできるだけ速く学校にアイパッドをもってきたいです。のうとにを書くのに時間がかかるから黒板の字を写真をとって勉強したいです。
プリントの読めないところを写真おとって音声読み上げをしたいです
アイパッドに入っている教科書をつかいたいです
作文やテストをにゅうりょくしてやりたいです
おねがいします。

この手紙を受けとった学校は Aさんの保護者を交え学校での配慮に関する話し合いを行いました。

その際、学校はどの場面でどのアプリを使用したいのかタブレットを実際に使用して説明してほしいと保護者に要望しています。話し合いの末、学校は通常学級へのタブレットの持ち込みを許可し、Aさんはタブレットを紙と鉛筆の代わりにして学ぶようになりました。

小学6年の4月、学校で学力テストが行われることになりました。Aさんは学力テストでも問題文の代読と回答にタブレットのワープロ機能を使用することを希望しました。前年度は通級で学力テストを受けましたが、今年は在籍校で配慮することが検討され、通級での実施方法をもとにAさんへの配慮がなされました。

この記事のまとめ

https://i2.wp.com/rumihirabayashi.com/wp-content/uploads/2017/07/hirabayashi-sanface.png?w=880&ssl=1
平林

みんなとは違う方法を通常の学級の中で選ぶには時間がかかります。なぜなら、そこに「経験して、選ぶ」というプロセスが入ることが大切だからです。子どもたちの話に耳を傾け、ともに経験していってください。それが本人の自己決定を尊重していくことになると思います。

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