こんにちは。平林です。
いろいろな困難のある子どもたちを対象にイベントを開催すると,はじめの会のとき,10人に1人か2人はその集団の中に入れないということがあります。ある時,机と椅子が並んだ教室に入れない子がいました。
その子は教室の外から教室の様子を見て,無理だと判断したようで,教室の入り口で立ち止まっていました。このようなことは珍しくないことなので,スタッフは「準備ができたら入っておいでね」と声かけし,朝の会がはじまります。
こんなときに役立つのが,ノイズキャンセリングヘッドフォンとワイヤレスマイクです。
(詳しい製品情報や使い方は以前の記事ざわざわした教室が苦手・先生の話が聞き取りにくい,そんな「聞こえ」の困りごとにテクノロジーが役立つをご覧ください)
まずノイズキャンセリングヘッドフォンがその子にとって快適かを確認するために,教室の入り口に座り込んでいるその子にノイズキャンセリングヘッドフォンを見せ,「これ試したことある?ちょっとこれをつけてごらん」と渡します。ノイズキャンセリングヘッドフォンをつけたその子の様子から,それが不快でないことを確認したら(不快と言う反応だったら,ノイズキャンセリングヘッドフォンを使うのはやめます),講師にワイヤレスマイクの送信機を持ってもらい,その子がつけているノイズキャンセリングヘッドフォンの入力端子とワイヤレスマイクの受信機とをつなぎます。そして,講師の声をその子に届け,再び様子を確認します。
その子は教室の中の先生の声が耳元で聞こえる状態を快適と感じたようで,わたしの「これ,どうかな?聞きやすい?」との問いかけに,深く頷き自分の持っていたiPadを触りながらも,教室の中で何が行われているのかに関心を寄せている様子でした。
その子はその後も教室の中に入ることはありませんでしたが,その都度,教室の中で行われている活動を教室の外で自分で一緒にやる様子が見られました。さらに,子どもたちそれぞれに,そのあと行うミッションがiPadの中の電子書籍に入っていることが発表されると,自分でその電子書籍を開き,内容に目を通すと,自発的にそれをマインドマップにまとめて,どのように課題を進めるかを考えている様子でした。そして,同じグループの子と一緒にそのミッションに出かけて行き,その活動を楽しみ参加していました。
その後のまとめの時間,その子はやはり教室の中に初めからいることはありませんでしたが,必要な時は教室に入り,活動を行い,教室の外でまとめのワークシートにきちんと自分で取り組む姿が見られました。
この様子を通して,わたしは多くのことを学びました。それは,
”もしだれもが同じやり方でなければ授業に参加することができない状況であったならば,この子のすばらしい活動の様子を見ることはできなかったのかもしれない。それぞれのペースで,それぞれのやり方で学ぶことができれば,子どもたちはのびのび学ぶことができる”
ということです。
そして,制約の中で学ぶ子にいろいろな選択肢を示すためには,テクノロジーの存在が欠かせません。
通常は教室の中に入らなければ,教室の中で行われる活動の中身を知ることはできません。だから,教室に入れないことが活動を大きく制限してしまいます。しかし,ワイヤレスマイクがあれば,それを通して教室の中の様子をその子に伝えることができます。そうすることで,教室に入れないという制限を解消し,教室で行われている活動の中身を知った上で,その子がどのような行動をとるのかを,大人は観察することができるわけです。
テクノロジーは子どもたちの学びのスタートにいろいろな選択肢を与えてくれます。それによって,大人はその行動を観察するために一歩待つということができる。そして,大人が一歩待つということで,子どもたちはまた別の姿をみせてくれることがあります。