こんにちは。平林です。GIGAスクール構想によって学校へのタブレット導入が進んできましたね。今回は,「1人1台端末の利点を台無しにしてしまう学校のルール」についてです。
この原稿,実は別の原稿のために書いたものなのですが,原稿の趣旨と合わなかったため別のトピックに変え,掲載する機会がなくなったのですが,せっかく書いたので,ブログに掲載します!
もくじ
子どもが自分のスマートフォンやタブレットPCを持つことが珍しくない時代になりました。一方,家庭の経済状況によっては自分の端末を所有できず,経済格差が子どもの教育格差・情報格差につながることが懸念されます。子どもに1人1台の端末が貸与され活用されることは教育格差の是正という点から大きな意義があります。また,特別支援教育的の視点からは学校の中にある偏りの是正という視点から以下のような意義があります。
- 筆記用具になる(読み書きの代替手段)
- 自分の情報を入れておいていつでも参照できる外部メモリになる(記憶の代替手段)
- 周囲とのコミュニケーションの手段になる(コミュニケーションの代替手段)
現在の学校は読み書き計算が学習の基礎的な手段となっており,教師やクラスメイトとの会話は音声を介して対面で行われます。そして,授業時間に学校の教室に来ることができないと授業に参加できません。このように学校の中にある標準はさまざまな偏りを生み出します。教育で1人1台のタブレットが活かされることによって,偏りよって生じている子どもの学びにくさを解消することが可能です(表1)。
学校の標準 | 別の選択肢 |
---|---|
文章を読む | 文章を音声化して聞く |
文字を書く | 写真を撮ったり,ワープロで入力する |
計算をする | 電卓で答えを導く,九九表や計算手順シートを参照する |
口頭で話す | 文字でチャットをする |
音声を聞く | 音声を文字化してそれを見る |
教室で授業に参加する | オンラインで家や病院などから授業に参加する |
GIGAスクール構想によって,1人1台のタブレットが学校に配備されれば,子どもが学びやすい学校が作れるはずです。しかし,実際にタブレットが配備された学校の子どもや保護者の方から懸念の声が聞かれます。
みんな口を揃えて,学校から貸与されたタブレットは制限が厳しくて使いたいことに使えないというのです。
学校の中のどのようなルールがこのような状況を生み出しているのでしょうか。家庭から寄せられる学校のタブレットに付帯して設けられている制限やルールは以下のようなものです。
- 家に持ち帰れない
- アプリを自由に入れられない
- メールアカウントが使えない
- 周辺機器と接続できない
- 家でインターネットに繋げない(過度に制限されている)
このような制限・ルールは1人1台端末の利点を台無しにしかねない,いわば“キラールール”と言えます。なぜでしょうか。
タブレットを筆記用具として生かすためには自分専用の端末を常に持ち歩けることが大切です。メモしたい時にメモをし,その情報を見返したい時に見返すことができれなければ意味がありません。
ある子どもは学校の自分専用タブレットで黒板をカメラで撮る,ワープロでメモをすることは許可されているけれど,それを家に持ち帰れないため学期末にまとめてCDに入れてもらうことしかできないと嘆いていました。これではメモの用途は果たせません。
また,端末を家に持ち帰れることは,家に十分な教育資源(塾や問題集)がない子どもをサポートするという重要な意味があります。家に本がない,インターネット環境がない,パソコンがない,そんな状況を1人1台のタブレットが変えてくれるのです。タブレットでやる宿題がもっとあってもよいでしょう。子どもが家で学ぶときの相棒とすべきです。
PCからタブレットに変わり端末は個人用にカスタマイズして使うようになりました。子どもの状態に合わせて必要な機能やアプリ(表1)が入れられる環境を整えることが大切です。
端末にアプリを入れられないという制限があってもメールアカウントがあってウェブサービスの登録ができれば,ウェブ上でさまざまな機能が使えます。例えば,Google Chromeでは自分のGoogleアカウントに拡張機能を入れるため,端末自体にアプリを入れる必要はありません。また,自分のアカウントでログインすれば自分の端末でなくても,学校・図書館などさまざまな場所にある端末で自分に必要な機能が使えます。メールが書ける・読めることは現代における必須のスキルでもあります。
中学・高校になると学習量が増え,先生が取り扱う資料も専門に合わせて個別のものが増えます。これら資料は教科書のようにあらかじめ電子媒体を用意する仕組みが整っているわけではないため,紙の資料が読みにくい場合にはその都度,スキャンして文字認識させる電子化作業が必要にあります。この時,一枚一枚写真を撮るのではなく高速スキャナで一気にタブレットに取り込むことができれば作業効率が格段に上がります。タブレットを紙と鉛筆として機能させるには,紙からタブレット,タブレットから紙へ情報を変換する周辺機器が必要です。
子どもが持つ端末がインターネットにつながることの是非は常に議論があります。有害なものからあらかじめ子どもを守ることが,将来的にそれらの危険性から子どもを守ることになるでしょうか。私もインターネットを使う上でルールや制限は必要と考えます。夜10時以降はインターネットにつながらないようにする,小学生は端末を夜の間自室においておかないようにする。友達と交流ができるSNS機能のあるアプリの使用には時間制限を設けるなどです。すべてのインターネットを制限してしまっては,自律的に情報を調べる学習者が育ちません。大人の手が届くうちに子どもにトラブルが起きた時の対処を教えなくてはなりません。
1人一台の利点を台無しにしかねないルールを見直し,子どもを自律的な学習者として育てるための環境づくりが大切ではないでしょうか。
一度作ってしまったルールはなかなか変えにくいという面があるかもしれません。しかし,変えられないものではないはず,どうやってゆるめていけるかを考えたい,そんな希望と期待をこめて,この原稿を書きました。